イギリスから来た男
主役がいい感じだった。強面で寡黙。娘の事故死に疑念を抱いて、当たりをつけた倉庫にも無造作に侵入。支配人らしき人物が驚いて誰何しても、平然と言葉を交わす。不法侵入しておいて堂々としたそぶりに、これからどうなるのかとわくわくした。
ところが、寡黙に見えた男の口が急に軽くなる。誰何されて、チンピラが大物でも装うかのような薄っぺらい自己紹介をぺらぺらと口にする。そのあとすぐに実力行使に出るのだから、初めから腕ずくでいけばいいものを。
そして、強面なのは顔だけだとわかる。倉庫で働く従業員が駆けつけてきても威圧することすらなく、あっさりと取り押さえられる。なにやら怪しげな商売をしているらしいこの倉庫が、娘の死に関わっていたらどうするつもりだったのか。主人公が始末されてしまえば、そこで話は終わってしまう。
監督には筋書きが最後までわかっているだろうから、ここで取り押さえられても問題なしと判断したのかもしれないが、当の主人公には安全だとわかるはずもない。取り押さえられるにしても、なんらかのアクションは入れるべきだった。これでは、魅力を感じた堂々とした不法侵入も、初めから結末がわかっていて安全なのでそうしましたと言っているようなもの。
せっかく主役が醸し出した魅力を台無しにするのはどんな監督なのかと、調べる気になった。監督の名はスティーヴン・ソダーバーグ。なんでも有名な監督だそうで、確かに聞き覚えはあるのだが、その監督作品に気に入るものが一本もないことに納得した。