トロイ

トロイ 特別版 〈2枚組〉 [DVD]もっと脚色を!

ブラピ演じるところのアキレスが射殺される。恋人を抱きしめる英雄が、無情にも放たれた矢に貫かれて死ぬ。感動のクライマックスシーンのはずだが、殺すのがパリスとあって一気にしらけてしまう。パリスは戦争を起こした張本人であり、低能で臆病な、ただのスケコマシだ。それがクライマックスになると別人のように強く雄々しくなって、英雄殺しの大任を果たす。

あまりの内容にあきれて、手元にあるギリシア神話の本を紐解いてみた。すると、確かにアキレスを殺すのはパリスになっている。ぶざまな臆病者が無敵の英雄を殺せたのにはわけがあって、なんと、人ならぬアポロン神がパリスに力を貸していたのだそうな。太陽神が相手とあっては、いかに無敵の英雄といえども、人間に勝ち目はあるまい。

神であるアポロンが力を貸したのであれば、パリスごときがアキレスを倒せたことにも合点がゆく。ならば、そのように描写するべきだ。しかし、本作では「神はいない」と現実主義の設定がなされているため、太陽神抜きで臆病者が雄々しく英雄を討ち取るという、あきれた展開となってしまう。

そもそも手元の本によれば、アキレスはもっと早い段階で死んでいる。木馬を使っての侵攻作戦はアキレスの死後のことだ。トロイの英雄ヘクトルにしても、尊敬に値する人物ではあるがアキレスとの決闘を恐れて逃げ回ったと記されている。しかし、本作にそのようなシーンはない。

もちろん、手元の本が正しいとは限らないのだが、10年も続いた戦争であることはばっさりと切り捨てられているように、映画の常として本作が都合よく脚色されていることは疑う余地もない。主役のアキレスにさっさと死なれては困るし。弟のパリスばかりか兄のヘクトルまで逃げ回ってはキャラが被るし。ってなわけで、ヘクトルは逃げずに潔く戦い、アキレスは木馬に乗り込んでクライマックスを盛り上げることになる。

娯楽作品なのだから、脚色することに文句はない。文句は別のところにある。それは、脚色が足りないことだ。なぜ、アキレスを殺すのがパリスなのか? 文句はその一言に尽きる。ギリシア神話の神々からして登場しないのだから、英雄殺しの大任を臆病者のパリスなんぞに委ねる必要はまったくない。

クライマックスにアキレスを殺して、ストーリーが盛り上がる最高の人物。それはブリセイスをおいてほかにないだろう。本作ではアキレスとブリセイスのロマンスが描かれている。しかしながらブリセイスにとって、アキレスは国を滅ぼし、いとこのヘクトルを殺した憎むべき敵でもある。

恋しいけれども憎い。憎いから殺す。殺してみれば恋しくてたまらない。アキレスを討つのがブリセイスであったならば、悲劇と悲恋が重なり合って、傑作となったであろうに。脚色するならするで、なぜ、そこまで徹底して脚色しなかったのか。ああ、もったいない。

追記

いささかレビューに気合いが入りすぎた。かなりの長文になってしまったが、実は長ったらしい脱線レビューがあって、それを全部削除して一から書き直したら、もっと長くなってしまったのだった。

ってなわけで、以下は削除された脱線レビューである。


手元にあるギリシア神話の本を紐解いてみる。「トロイ」でなく「トロイア」。「アキレス」でなく「アキレウス」。そう記述している。

漢字文化圏である我が国では「曹操」を「そうそう」とそのまま日本語で読むように、アルファベット文化圏である英語世界では「Julius Caesar」を「ジュリアス・シーザー」と読む。そのまま英語で読めるのだろうからどう読もうと異論はないが、「Julius Caesar」を日本語で読めない以上は「ユリウス・カエサル」と正しく読むべきである。外国の固有名詞をさらに別の外国語で読むのは明らかに間違っている。

とはいうものの、外国のものを別の外国語で読むのは日本のお家芸であるらしい。仏典がいい例で、元々は梵語で書かれたものが漢語に翻訳され、それを漢文として日本語で読む。日本に限らず、文化文明の伝播というものは往々にしてそういうものなのかもしれない。

ちなみに韓国については、先方が日本のものは日本の読み方を採用しているそうで、外交上、相互主義の観点から日本でも韓国のものは韓国の読み方をするとのこと。古い話で恐縮だが、元大統領の「全斗煥」氏をニュースでもずっと「ぜんとかん」と呼んでいたのに、ある日気がつくと「チョンドファン」と呼ぶようになっていたのはそういうことらしい。

とまあ、そんなわけで。力いっぱい脱線してしまったが、


ほんとに脱線してるよなぁ、と実感したので削除しちゃいましたとさ。
てへっ (≧∇≦)