ホステル

ホステル コレクターズ・エディション 無修正版 [DVD]
せっかくのアイデアが埋もれている。

旅先の宿泊施設で惨劇が待っているという古典的シチュエーションに、真正面から取り組んだ作品なのだと期待していた。ところが、舞台はホステルではなかった。ホステルは獲物を誘き寄せるためのエサ場に過ぎず、惨劇の舞台はまったく別の場所だった。

その場所は人気のない郊外の廃墟というつまらない設定なのだが、実はここに思いもかけないアイデアが用意されていて、目が離せなかった。廃墟の前にたむろする運転手たち。車に乗り込んで帰ってゆく客。受付の男。案内する女。待ちかまえる殺人鬼。雑用もこなす警備員がいるかと思えば、死体を処理する清掃員もいる。警察も荷担しているようだ。

なんとまあ驚いたことに、ここでは殺人鬼を顧客として、システム化された惨殺ビジネスを提供しているのだった。謎の殺人鬼などは登場しない。一見平凡そうなふつうの市民が料金を支払って、用意された個室で安全に、サービスの運営元が差し出した獲物を惨殺するのだ。

こう書くとなにやらおもしろそうに思えるが、実際にはただグロいだけでおもしろくはない。惨殺ビジネスというアイデアこそが本作最大の売りだと信じて疑わないが、どうやらプロデューサーを務めるクエンティン・タランティーノはそうは思わなかったようだ。タイトルからもわかるように、エサ場に過ぎないホステルにこだわっている。

そもそもこの作品は、物語の前半分はただの旅行記という無意味なシーンで埋められている。多少の伏線はあるものの、30分以上も死人は出ないし、そこでようやく始まったと思っても肩すかしを食らう。

伏線を披露するだけならほんの数分で充分。主人公一行のくだらない旅行記はばっさりカットして、空いた時間で本作の主役にスポットライトを当てて欲しかった。その主役とはもちろん、顧客の殺人鬼たちだ。

セリフもなくワンショットだけの端役殺人鬼に、セリフのある脇役殺人鬼と、本作には多くの殺人鬼が登場する。事前に紹介シーンのある殺人鬼はひとりだけで、あとはすべてぽっと出の殺人鬼たちだ。おまえ誰だよと言いたくなるような登場人物が、突然出てきて熱く殺しを語ったところでおもしろくもなんともない。

せっかく惨殺ビジネスという奇抜なアイデアを生み出したのだから、中身空っぽのくだらない旅行記ではなく、顧客である殺人鬼たちの平凡な日常生活をこそ事前に描いて欲しかった。そうでありさえすれば、廃墟で黙々と人殺しにふける殺人鬼たちの集団に恐怖を覚えたであろうに。

そして最後に復讐を果たす主人公も、生還する主人公も不要。ホラーとして楽しませるなら、むしろ逆。誘き寄せられた獲物でしかない主人公にはきっちりとくたばってもらって、主役である顧客の殺人鬼にこそ、平和な社会に平凡な市民として舞い戻ってもらいたかった。

グロいだけの作品にせっかくのアイデアが埋もれてしまうとは。ああ、もったいない。