鬼平外伝 夜兎の角右衛門

石橋蓮司が気に入った。

外伝と銘打っているので鬼平が登場しなくても納得できるが、やはり物足りなかった。牢に入れた主人公に対して、お頭から任されたと与力がセリフで説明してくれる。それが逆に鬼平の存在を感じさせ、すぐそばにいるのに顔も見せないのかと残念だった。

主人公の最後は予想どおりだった。ほかの結末は考えられないのであれでよかったが、いったん間を外してほしいとか、刺した相手に顔がほしいとかの思いはあった。しかしながら、間を外さないからこそ死の間際に家族を見つめていられたのであり、顔がないからこそ刺した相手に感情移入しなくてすんだ。出番のなかった人物が刺したのなら、そもそも顔は不要でもある。異論はあっても、こうすべきと結論の出せないクライマックスだった。

主役には気の毒だが存在感が薄かった。脇役がよすぎたというべきかもしれない。

中村敦夫は登場しただけで目を引いた。出演しているのは知らなかったし、ひさしぶりに見たので初めは中村敦夫だとわからなかった。よって、名前や顔で目を引いたのではない。役者の持つ華が、ひとり際立っていた。鬼平役でもよかったように思う。

主人公の右腕となる捨蔵が実によかった。役者の顔は知っていたし、石橋蓮司という名前も過去に何度となく目にしたが、名前と顔はこれまで一致しなかった。気に入って、この作品でしっかり覚えたから、忘れることはないだろう。捨蔵には主人公を刺殺する役をやらせたかったが、石橋蓮司には主役をやらせたかった。

くちなわの平十郎役もよかった。この役者には夜兎の掟を破る役をやらせたかった。中村敦夫鬼平石橋蓮司が夜兎の角右衛門で、くちなわの平十郎役とやりあって、死ぬ。そんな作品を見たかった。実際の主役にはひとのよさしか感じられず、盗賊の頭としての凄味や、日陰者の悲哀はなかった。大店の主ならうってつけだったろう。

なにを言っているのか聞き取れないセリフがいくつかあった。あくまでも見世物なのだから、演技は多少犠牲にしてでも、しっかり語ってほしい。